セクト (sEct・派閥・党派)その1


1980年代から始まった古典的な占星術の復興は、初期には小さな胎動でした。その動きは2007年以来、多くのラテン語やギリシャ語、そしてアラビア語の西洋占星術の文献類から英訳されたことで弾みが付きました。そうやって、多くの文献類が英訳されていながら、それらを通した、明確な一貫した秩序の整ったチャート解読の手法が2012年ぐらいまでに、誰にも見つけられなかったのです。

 

それらの文献類からチャートを判断する方法を組み立てることはジグソーパズルのように難しく、これを当てはめると、こちらが立たず、こちらを当てはめると、あちらが異なるといった具合に整合性が取れないことの連続でした。ジグソーパズルの最も基本的な四隅に当たるパーツが見つかったのです。それが「セクト」です。「ジェンダー(男性性と女性性)」と「サインの性質」が最初に書かれています。 

 

太陽が地平線の上にあるか、下にあるかによって、チャートのセクトが決まります。昼のセクト・チャート、夜のセクト・チャートのどちらかになります。

 

レトリウスのCompendium(James H. Holden ジェームス・H・ホールデン訳)その2には、下記のように記されています。

 

その1は、男性格と女性格のサイン、ハウス、惑星の事柄です。これは、今日でもそのような分類方法が残されているので馴染みのあるものです。太陽とのフェイズ、サイン、象限等によって、惑星たちは男性格の性質を強く帯びたり、女性格の性質を帯びたりすると書かれています。

 

問題は、その2に書かれた「セクト」です。

レトリウスの本、実際の名前は Rhetorius The Egyptian で検索しないと出てきません。

 

 

2.星々の分類    から始まります。

 「昼生まれの人は、太陽、土星、木星が(昼)セクトのルーラーである。夜生まれの人は、金星、

月、火星が(夜)セクトのルーラーである。水星は昼夜共通のルーラーと定められる。太陽、木星、

月、金星は吉星と考えられ、土星と火星は凶星である。水星は吉凶両方の機能を持ち、良い星

と共にあるなら吉星となり、悪い星と共にあるなら凶星となる。これらの吉星と凶星について、

彼らは、度々、とあるネイタル・チャートの中で、フェイズとセクトとハウスによって、良い位置に

なっている凶星が幸運を膨らませると考えた。逆に、星が悪い位置にあると、ダメージをも

たらすとした。ドロセウスはこの問題に付いての項目で、「… 凶星は3つの方法で鈍くされる。

星は、良いハウスに見つかればもはや悪くはなく、ハウスが悪ければ何かに使えるということ

は一切ない」 と書く。 」                               

(ジェームス・ホールデン訳)     .

 


セクトがとても大事であることは、他の文献類からも明瞭に浮かび上がります。例えば、フィルミクス・マーテルナスの Matheseos には下記のように、昼セクトと夜セクトの火星の項目で、まるで異なる惑星のように扱っています。

ジーン・R・ブラム訳     . 

III ー 3

昼(セクトのチャート)の火星(♂)がアセンダントにあるのは、人を大胆にし、利発で感情的にする。放浪者であり、あらゆる点で不安定である。彼らは始めた事柄を完成させることはできない。何に手を染めても彼らの手から流れ出し・・・

 

III ー 8

夜のセクト・チャートで) 3ハウスの火星への木星のアスペクトは、最も大きな力と名誉による支配階級を指し示す。ネイティブはやがて彼の階級の全てのものよりも、より優れたこととなる。

 

また、アラビアの占星術師サエルは、

夜のチャートで土星が山羊のサインにありアングルにあると、最も悪い働きをする」

と書いています。サインのロードなのにと訝っていましたが、その状態はセクトを外れているからです。確かに、夜のチャートでと書かれています。

 

2018年~2019年にかけて、ホラリー占星術でのことですが、上記の山羊のサインに在るディグニティーの高い土星の悪さを何度も体験してきたので、セクトを得ていないマレフィックはとても良くないことを実感しました。それは事実だと。


お気づきのように、同じ火星が昼と夜で異なり、まるで夜の火星をベネフィックであるかのように扱っています。また、ディグニティ-が高くてもセクトを外れていると強くマレフィックとしての意義を示唆することも経験できます。

 

そうなのです。私も文献類は読んでいながら、セクトの重要性については全く気付けなかったのです。それくらい、単に文献類を読み流しているだけでは気付けない事柄だらけなのが伝統的な占星術の古文書類なのです。それらを読んでも「どうやってチャートを読めばいいんだろう?」と、長い間疑問に感じていました。パズルです。

 

それがチャールズ・オバート著の『古典占星術』(河内邦利 拙訳)を読んだときにハタと閃いたのです。これでチャートが読めると。それが単純なセクトの考察から始めることでした。 

 

 

ですから、多くの伝統的な占星術の本が日本語で出てきてはいますが、まだ最初のセクトに関する書籍が無いのが実情です(2024年8月現在)。もう数年すると変わってくると思いますが、セクトが最初のステップで大事であることは充分にお分かりいただけるものと思います。数年先に、ああ、やっぱりセクトを把握しておいて損はなかったと感じていただけるものと思います。

 


セクトはどのように観察すべきなのか

 

セクトの惑星は、チャートのどこにあっても構わず、昼の惑星だからといって地平線の上にある必要性はありません。夜のセクトの惑星も同じく、チャートのどこにあっても、太陽が地平線下にあれば夜のチャートになるので、夜の惑星がセクトを得ます。すると、昼の惑星たちが自動的にセクトから外れます。

 

昼のセクトのベネフィックが1つ、マレフィックが1つ。

夜のセクトのベネフィックが1つ、マレフィックが1つ、あります。

太陽と月のどちらかが、セクトライトになります。昼の太陽、夜の月です。

 

水星は太陽の先に上昇している「朝型」の星であれば昼のセクトとなり、太陽に遅れて上昇していたならば「夕型」の星となり、夜セクトの惑星となります。

 

次の観察

 

セクトの状態を得た、あるいは、逆のセクトとなった惑星たちは、歓喜状態になるかならないかで良さを得ていきます。レトリウスのものでは44番目の項目に当たります。そこまでは、サインとハウスと惑星の話が延々と続いています。セクトについても、ボチボチと述べられています。しかし、大事なのはここからです。この44番目が難しいのは、歓喜状態のことを一緒くたにして述べているからです。よ~く考えながら読まないと、どこで歓喜状態を得るのかが不明になります。朝型の星として歓喜状態になるのが、土星と木星と火星だとしています。しかし、アレクサンドリアのパウルスの見解では、土星と木星と朝型の星となった水星が歓喜するとしています。金星と火星は「夕型」の星となったときに歓喜するとしています。火星はとてもその歓喜状態の把握が難しい惑星ですが、プトレマイオスが、火星は暑すぎるから水のサインがちょうど良いと述べたように、涼しい状態である「夕型」の星となったときに歓喜すると解釈していいでしょう。「朝方・夕方」ではなく「朝型・夕型」であることに気を付けてください。

 

地平線の上にあるか、地平線下にあるかでも、歓喜状態を得る場合があるとしています。

 

四分円における象限によっても、歓喜状態を得る場合があるとしています。

 

レトリウスのものにはありませんが、男性格の惑星が男性格のサインに入っているときに歓喜状態を得ることがあります。ここでも火星が厄介な(捉えにくい)惑星となります。

 


ベンジャミン・ダイクスP.H.Dは、もの凄いスピードで、これまで眠っていた多くの古典的な西洋占星術のテクスト類を英訳してくれています。それゆえに、必然的に、私たちが彼のテクストを読みこなすためには、幾分、前提となる知識が必要になってきています。その1つは、アラビア時代の占星術が色濃く反映されていることです。

 

 彼もヘレニスティックな占星術(アラビア時代の占星術よりも古い)の英訳にも入っていますが、圧倒的に今のところアラビア時代の占星術のものが多いのです。例えば、彼のITAの中では、ドメインと、ヘレニスティックなセクトとの関係が曖昧になっています。現在では、この見解を訂正していて、「ドメインと、セクトとの関連性は歴史的な推移」と理解しています。彼がアラビア時代のものを先に翻訳していた関係から、上記の考え方が出てきたのでしょう。セクトは単純に、昼と夜に惑星を分けただけの、しかし重要な概念です。

 

セクトの方が歴史的に古く、昼の惑星と夜の惑星に分けるだけのことですが、これがなかなか重要性を帯びる最初の概念になっていることに気が付けます。おそらく、ネイタルはこの基本的な概念から始まるのではと思わせてくれます。事実そうなのですが。

 

チャートが昼のものなら昼の惑星がより有用性を持ち、夜の惑星である金星はあまり働かず、

一方、マレフィックな火星は、昼の方がより悪さをすることになります。 

 

チャートが夜のものなら夜の惑星がより重要性を持ち、昼の惑星である木星はあまり働かず、

一方、マレフィックな土星は、夜の方がより悪さをすることになります。

 


セクトの理論

 

「セクトの理論」という言葉は無いのですが、例え話として読んでください。

 

ネイタル占星術におけるセクトの概念は、最も基本的でありながら、21世紀になってようやく私たちに明らかにされたヘレニスティック占星術から発祥した、おそらく最も古い概念の一つです。

 

この考え方は、同じロジックでベネフィックやマレフィックを観察する際にも適用されていくところが面白いところです。つまり、セクトでは、昼のベネフィックな惑星は昼に良さを与え、昼のマレフィックな惑星は昼に悪さをあまりしないという論理があり、これと良く似た論理性で、それぞれの昼と夜のマレフィックやベネフィックを観察する際に適用されます。

 

マレフィックな惑星やベネフィックな惑星に当てはめて考えることができます。

 

マレフィックな惑星でも、セクトを得てMC上での状態が良ければ、(ここにハウスの場所にも関係するとされる類似性が語られるのですが)、良さを充分に付与します。

 

また、ベネフィックな惑星でも、セクトを得ていなければ、悪運をもたらすとされる8ハウスや12ハウスにあると、悪さが発揮されたりするわけです。

 

例えば、8ハウスに木星が入っているとすれば、良い(セクトを得ている)時には死に関する良きもの(老衰など)を与えるわけですが、悪い(セクトを得ていない)時にはバイオレンス・デス、悪い死に様を見せてしまいます。

 

マレフィックな惑星がマレフィックな状態で悪いほど(セクトを得ていないと)、マレフィックな働きをしてしまいます。同時に、マレフィックな惑星が良い状態であれば(セクトを得ている)、その状態によって良い働きをしてくれます。

 

マレフィックな惑星が良くも悪くもなければ、そのハウスで悪さを生じさせることなく、(中間状態としてもいいでしょう)、穏便にやり過ごせます。ここでの観察では、歓喜状態を得ているか得ていないかが観察の視点になります。

 

こういうことですから、惑星をどのように観察するかは、ネイタルのチャートを読む場合のスタートになるわけです。それらは、セクト、どのハウスのルーラーなのか、入っているハウス、サイン、ディグニティー、アクシデンタルなもの、その惑星とハウスとの類似性、オポジションのハウスとの関連性、アスペクトやリセプション、アンティッションになる惑星との関係、他の惑星との関連性などに膨らんでいきます。あまりエレメントのことは出てきませんが、必要になることもあります。まずは、一つの惑星だけに集中して、どのような状況に置かれているかを把握することから始めます。

 

これらの状況の把握という点は、これまでの日本の占星術では、一部しか語られてこなかったものです。