判断の前の考察

The Considerations before Judgment



 日本で紹介されてきたハウスの概念には、今日までになるほどと思わせる2つの考え方が展開されています。一つ目の考え方は、サインの順番に即して、サインの意味=ハウスの意味としたものです。二つ目は、ハウスの番号順に人の心の成長は進んでいくというものです。一つ目の物は、1ハウスは牡羊のサインに対応し、2ハウスは牡牛のサインに相応し、3ハウスは双子のサインに即応するとしたものです。二つ目の物は、ハウスは精神的な成長に呼応していて、人が生まれると同時に1ハウスでは個が出現し、2ハウスではその個であるものが意識に気付き、3ハウスでは自他を認識し、更にその意識はハウスの番号順にどんどん高められていき、やがて12ハウスにおいて完結し、集合的な無意識である宇宙意識と同化するという主に心理学的でスピリチュアルな占星術で使われてきた捉え方です。

 

 イギリスの古典占星術研究家であり実占占星術師のデボラ・ホールディング女史が自著The Houses: Temples of the Sky[1]の中で述べるように、これら2つの考え方は、どちらもモダンな占星術と呼ばれるものの中で取り上げられていますが、それらは、古い文献を確かめながら書かれているわけでは無く、ほとんどは17世紀以降に為された想像であり創造の所産です。これらの事はこの本の中でも順次明らかにされていきます。何故古い文献を頼れなかったのかというと、現時点でも、大勢の日本人として読むことのできる本は、英文のものがせいぜいであり、ラテン語で書かれた本や、アラビア語で書かれた文献に直接触れる事のできた人達がそう多くいなかったからです。西暦2000年の前後から、ようやく12世紀以前の西洋占星術のラテン語の本やアラビア語の本が英訳[2]されて紹介されるようになってきました。このHPではそれらを探りながら、ハウスの意味合いを他のページで述べています。



[1] ハウスの意味を、歴史を遡って研究した秀逸な本です。

 

[2] それまでにも英訳されたものが無かったわけではありませんが、実占を行う西洋占星術師が訳したというよりも、学者の訳したものが多かったのです。


 星占いに携わっている私達にとってあまりにも当たり前のハウスという概念が、実は一般の人々にとっては全く何のことかが分かりません。現代の言葉にそぐわないものの一つです。現代の言葉にそぐわない、とは、物理学的な世界観と隔絶している概念だということです。

 

 太陽星座占いの12星座、専門的には12のサインという分け方はご存じだろうと思います。星占いにはもう一つ12に分けるものがあって、それが12のハウス・システムです。

 

 乙女座とか獅子座とかともちょっと違っていて、ここではハウスの方を説明します。説明をするよりも図をご覧下さい。下図の、赤い線で囲まれた部分は10ハウスと呼ばれる場所を示しています。ホロスコープ作成ソフトで示されるカスプで区切られた部分とも、幾分違っています。この赤い線は頭の中で構築しなくてはいけませんし、とても曖昧でも構わないものです。

A-図

 ホロスコープあるいはチャートと呼ばれる西洋占星術の図表に向かうと、大概上記のAー図のようなものが示されます。向かって左側が太陽の昇る所で、東です。北半球での日時計のように、時間と共に右回りにチャートは動いて行きます。

 

 ハウスというのはその東から太陽の進行方向に順に組み立てられて作られたのですが、ご覧のように、どういうわけか番号は逆に付いています。A-図に基づくと番号は逆時計回りですね。これをハウスと言います。

 

 現在、太陽が昇る東側から地底に向かって1番目のハウスを1ハウスと呼びます。図で赤い線で囲んで示した所は、ミッド・ヘブン、10ハウスです。

 

 サインの角度数は左り回りに数えます。西洋占星術では、数字は標準として左り回りに数えるので、ハウスの番号もこの数字の数え方に従ったのでしょう。ハウスの組み立てられ方は、太陽の進行とともに時間も時計回りで示されるように、右回りです。

 

 大昔、この意味がよく分かっていたのはハウスに番号は付けられておらず、1ハウスのことをアセンダントとかホロスコープ、2ハウスの事を冥府への門とか、4ハウスを天底とか意味合いで呼んでいたからです。簡単に数字にしてしまうことによって意味が分かりずらくなりました。

 

 

 話は込み入ってきます。一昔前のヨーロッパの大学では占星術を医学には必須の学科の一つとして教えていました。習い始めには便宜的に説明のしやすいイコール・ハウスシステムというものを使い、サインの他にも30度ずつのハウスも12ありますよと教えられたのだと思います。

 

 ホラリー占星術を学ぶと、ハウスはサインとイコールで無いことも習っていくはずです。トレミーという学者の書いた本『テトラビブロス』に基ずくと、上の図の赤い線で囲んだ10ハウスは、黒い線で囲った10ハウスの部分と微妙にずれてきます。そして、この赤い線で囲った部分こそが10ハウスなのです。

 

 M.Cと書かれているのはカスプと呼ばれる10ハウスの、玄関のドアに当たる部分です。玄関の前に5度ほどエントランスがあります。これを5度ルールと言います。トレミーという学者が著したテトラビブロスには、概にこの5度ルールというイコール・ハウスシステムを逸脱する考え方が述べられていますから、既に遠い昔からイコール・ハウスシステム以外のハウス・システムを使っていたことが分かります。

 

B-図


 ちなみに、イコールハウス・システムとは、下記のC-図のようなものです。

 

 例えば、ASCが、とあるサインの25度になっていたならば、その25度から30度ずつを、一つのハウスとするものです。

 

 C-図のチャートで

『太陽がASCの牡牛のサインの22度だったら』、

その日の出は12ハウスで起きるのでしょうか? それとも、1ハウスで起きていると考えるのでしょうか?

 

C-図

 神々しい日の出は、そんなに地平線に近かったら、1ハウスで起きていると古代人は考えました。したがって、牡牛の22度に在る太陽は、又は、どのような星々でも、アセンダントに入っていると考えます。だとしたら、地平線より少し上も1ハウスというルールが必要です。5度ルールと呼びますが、実際には、7度や8度戻っても構いません。ただし、サインを超えて戻れません。

 

 それというのも、このイコール・ハウス・システム(C-図)の前に、ハウス=サイン(D-図)という方式で、ネイタル占星術が説かれてきたからです。

 

 カスプを5度遡ると言っても、サインの境界を超えません。従って、カスプのある角度によって、5度遡れたり、遡られなかったりすることになります。B-図では1ハウスは5度遡れますが、2ハウスはその前2~3度だけしか遡れません。サインを超えるからです。エントランスの狭い2ハウスになりました。

 

 B-図のアセンダント、1ハウスは天秤の7度付近にあります。赤い線で囲われた部分がほぼ1ハウスです。サインは30度ずつハッキリと区分できますが、ハウスはとても曖昧な部分が在ることが示されいます。この世は、決められた事柄と曖昧な事柄の二つが重なり合っていることを如実に示しているようなものです。


 ちなみに、ホール・サイン・システムとは、下記のD-図のようなものです。上のイコール・サインと1ハウスの部分の位置の違いが見てとれます。ホール・サインでは、ASCが在るサイン全体が1ハウスとなります。5度ルールは存在しません。必要が無いからです。

 

D-図


 ハウスの意味は一つだけの理由で成り立っているわけではありません。太陽との関係がもっとも強いと言えますが、オポジションになったハウスの意味を加味する事も忘れられていません。そして、モダンな占星術では顧みられなかったジョイという概念が、意外にもハウスの意味を捉えるのに大きな役割を果たしています。

 

 サインの方の意味は、大きな時間、太陽の季節による変化から来る意味合いが主になっています。短かな時間、日々の太陽の動きにつれて変化する事柄は、ハウスの意味に加味されていきます。そしてサインとハウスの関係についてマニリウス※1は書きます。

 

  『どのような星位でも、全てのサインはハウスの中に占められる

   空によって影響される。位置は星を制し、利益を得るか傷つけ

   るパワーを星々に与える。各サインはその回転に従って、天そ

   のものが告知する天の影響を受け取り、その位置の性質を波及

   させ、その領域にある支配権を行使し、それらサインが通り過

   ぎる時、その性質の中に自身のものを服従させる… 』

                     マニリウス、アストロノミカ II-860節 ※ 1

 

 マニリウスは、ハウスの影響をサインが受け取ると書いています。ですから、ハウスの意味を正確に把握する事は占星術上の一大事です。

 

 卑近な例では、アングルに入っている惑星は強いということを経験していくと理解ができます。惑星達もハウスの影響を受けているからです。


  4ハウス 10ハウス

  3ハウス  9ハウス

  2ハウス  8ハウス

  1ハウス  7ハウス

 12ハウス  6ハウス

 11ハウス  5ハウス

 

 ※1 マニリウス、アストロノミカ(西暦10年)という、西洋占星術の技法を踏まえた抒情詩を著した。抜粋はそこから。英語版からの訳はHPの筆者 Kuni. Kawachi